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都で大学生をしています。理論生物学とシステム生物学に興味があります。

phagebiol

生体分子ネットワークの解析 一回目

こんにちは、taspoです。

今回は生体分子ネットワークの面白い話について書こうと思います。今回の記事は理研の望月先生著の「生命科学の新しい潮流 理論生物学」の二章三節に触発されて関連論文を漁ったものです。

生命科学の新しい潮流 理論生物学

生命科学の新しい潮流 理論生物学

 

 上に挙げた本の中では今回紹介する内容の章のタイトルは「生体分子制御ネットワークの構造の力学的解明」でした。何のことか少し分かりにくいかもしれませんが、要は転写制御等の生体内の制御ネットワークを「理論的に」解析して例えば起こり得る定常状態のような有益な情報を得ようという試みです。

 長くなりそうなのでまずは「そもそも生体分子制御ネットワークって何?」というところから順に見ていきます。

 

生体分子制御ネットワーク

 まず大前提として生体中には非常に多くの分子が存在して、それぞれが相互作用することで「生命」を形作っています。この分子と分子間の相互作用の集まりを「生体分子ネットワーク」と呼ぶことにします。分子間の相互作用の形はリン酸化であったり転写制御であったりとこれも多種多様ですが、今回は特に転写制御を考えることにします。

転写制御を考えるわけですが、今回は簡単のために遺伝子とmRNA、転写産物(タンパク質)を一緒くたにしてしまいます。かなり複雑ですがホヤの初期発生に関係する遺伝子から構成される系を考えましょう(図1)この系では76もの遺伝子(!)が相互作用するという制御関係を持ち、このような生体分子ネットワークに基づく系全体のダイナミクスが所謂生命らしさを生み出す根源になっていると考えられています。

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図1 ホヤの初期発生の細胞分化における遺伝子制御ネットワーク (Imai. K. S. et. al., 2006より転載)

この制御ネットワークはあくまでも制御関係の情報、すなわち特定の分子がどの分子を活性化あるいは抑制するかというような静的な情報しか持ちません。しかしながら、最終的に考えたいのは系がどのように振る舞うのかというような謂わば動的な情報です。一般に数理生物学的な手法で系のダイナミクスを考える際には、制御ネットワークが静的な情報しか持ち得ないという制限があるためにパラメータであったり制御関数の形を「仮定」する必要がありました。

このような仮定を置いてコンピュータシミュレーションする従来の手法は有用ですが、例えば図1のような膨大な数の遺伝子からなる系では膨大な仮定を置く必要があります。仮定が膨大であれば結果を解釈する上でも都合が良くありません。膨大な仮定の検証をそれぞれする必要があるからです。それでは、そのような仮定を介さずに、逆にネットワークの制御関係だけから系のダイナミクスを考えることはできないのでしょうか。

実は先の本の著者である望月先生達のグループが考案されたLinkage Logicという理論によれば、ネットワークの制御関係のみから仮定を置かずに系全体のダイナミクスを考えることが可能です。

理論の詳細はまたの機会に譲りますが、この手法は極めて画期的で、ごく簡単な極めて論理的な考え方に基づいて制御関係からダイナミクスを考えることができます。(最初に論文を見たときは感動したのを覚えています)

簡単に説明してしまえば、この理論を用いることによって、例えば図1の系であれば、たった16(!)の遺伝子の活性のみを見てやれば系全体のダイナミクスが分かります。また、この理論が更に驚異的なのは、未観測の系全体の定常状態あるいは未観測の遺伝子の制御関係を予測可能であるということです(!!!)凄いですね。

 

次回はそんな素晴らしいLinkage Logicの詳細について紹介しようと思います。